................................ ライン随想録

井浦幸雄

<< 海外日本食事情>>

「海外に住んでいますと、日本食の入手に大変でしょう」と、良く言われる。日本人の数の少ない、小都市・バーゼルにいるため和食・食材を手に入黷驍め実に苦

労がおおい。NY,ロンドンのような大都会では、各地に規模の大きい日本人向けスーパーもあり、日本国内とほとんどかわらない生活ができるらしい。1971―7

4年の第一次ワシントン生活は、年が若い事もあり、あまり日本食を食べなかった。1985―88年の、第二次ワシントン生活で、郊外に台湾人と日本人ご夫婦の

経営する寿司・魚ショップがあり、ここでヒラメを購入し、三枚へのおろしかたを教えてもらった。一時帰国時に日本から、刺し身包丁、砥石などを、購入してきて重

宝した。仲間ともちよりパーテイーの時など、ヒラメのさしみ」を供し、なかなか好評であった。

1989年以降のバーゼル暮らしでは、日本食が中心となった。外の会食ではフランス料理とか、いわゆる洋食であるため、家では和食がほとんどとなった。年を加

え体重が増え気味になった事も、和食指向をつよめたようだ。

和食・食材の調達には4つのルートがあり、それぞれ鮮度・コスト・調達の難易度をくみあわせて、最善とみられる方法をとるようにしている。

一つは現地ローカル・スーパーにおける調達である。スイス、フランス、ドイツの国境地帯に住んでいるため、それぞれの国のスーパーで、和食に適する食材を巧

みに見つけるようにしている。太い大根はドイツ、かぶ、鯛・えびのような魚介はフランス、まぐろ、白菜、ゴボウはスイスのスーパーで入手できる。現地スーパーは

もっともコストが安いが、和食の材料には十分でない。

二つ目は、バーゼルの東洋系スーパーと日本食スーパーでの調達である。東洋系はベトナム・中国人の経営するもので、細ねぎ、冷凍えびなど、割安のものを取

り揃えている。日本食品店は当地に一軒しかなく、カリフォルニア米、味噌、しょうゆ、なっと、漬物など、中心的なものの調達である。

三つ目は、年1―2度ほどの、日本一時帰国時に、日持ちするものを東京でもとめて、船便等で、バーゼルまで送るというルート。そうめん、うどん、のり、梅干しな

どが、このグループである。

四つめは、日本や欧州におる通信販売。日本では、好物の乾燥ぜんまいのような日持ちのするものを新潟県の農協(JA)に発注して東京の転送サービスまでおく

ってもらい、これをさらにバーゼルまで再転送してもらっている。オランダ、ベルギーの日本人向け通信販売も日本酒、インスタント・らーめんのようなものを、ファッ

クスで注文できる。

なんとなく、たいへんのようであるが、慣れてしまえばそれほどの負担に感ぜられなくなるので不思議である。逆に、ひさしぶりに東京にかえるとごく近所の店になん

でもそろっているので、天国に熄った気になる。東京(多分日本はどこでも)は、加工度の高い食材がきわめて豊富である。泥付きゴボウなどはなく、すべて、パック

されている。魚もすぐにたべられるよう手がくわえられている。多くの人が仕事を持ったりして、調理に時間を取られたくないのかもしれない。これでは、値段が高く

て当然と思うことが、しばしばある。

われわれ国外に住む日本人の多くは、20―30年まえの、古き良き日本人の食生活を踏襲しているのかもしれない。

井浦幸雄さんから投稿して戴きました。